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2021.11.01
宮城県は、県内の小中高等学校、特別支援学校等で勤務し退職した教職員の方々に対し、本来支払うべき額よりも少ない額の退職手当を支払っていました。
2007年に教職員の退職手当に関する条例が改正され、退職時の給与月額よりも高い給与月額が過去に支給されていた場合には、高い方の給与月額を基礎に退職手当を算定することとなっていましたが、宮城県は、この改正された条例に基づいて退職手当を算定していませんでした。
2019年4月にこの誤りが発覚した後、宮城県は、2014年度以降に退職した教職員に対しては、不足額を支払うことを通知しましたが、それより以前に退職した教職員には、誤りがあったことすら通知しませんでした。
宮城県は、退職手当については5年の消滅時効となることから、時効となっていない教職員にだけ支給することで問題を解決しようとしたものです。しかし、条例の適用を誤ったことは違法であって損害賠償請求権がありますので、5年より前に退職した教職員に対しても、損害賠償として不足額が支払われなければなりません。
このような宮城県の対応に対し、教職員組合が交渉を重ねたことで、宮城県は、対応の誤りを認め、5年より前に退職した教職員に対しても不足額を支払うこととなりました。
ところで、退職手当不足分を遡って支払うのであれば、当然ながら、遅延損害金が支払われなければなりません。同様の退職手当算定の誤りは埼玉県でも発覚しておりますが、埼玉県では遅延損害金も含めて支払っています。
残念ながら、宮城県の対応は、退職した教職員が遅延損害金を放棄するのであれば、退職手当の不足額を支払うという非常に不誠実なものでした。
そこで、2020年12月2日、7名の元教職員と1名の遺族が原告となり、宮城県を被告として、損害賠償として退職手当の不足分と弁護士費用、遅延損害金の支払を求める裁判を提起しました。
宮城県は、裁判において、多くの元教職員との間では遅延損害金を放棄する和解が成立しており公平でないとか、いわば内部の事務処理の問題であり県民の理解を得られないなどとして、遅延損害金や弁護士費用の請求は権利の濫用であると主張しました。被告の主張は、法律上の当然の請求をしている原告らを特異な存在のように扱い、正当な権利行使を抑制しようとするものであって、到底受け入れられないものです。
2021年9月27日、仙台地方裁判所は、原告らの請求を全て認容する判決を言い渡しました。宮城県は、この当然の判決を受けて控訴を断念し、原告らに遅延損害金と弁護士費用を含めた全額を支払いました。
原告らは、子どもたちを教える教職員であったからこそ、自ら「正しさ」を示さなければならないとの思いから立ち上がり裁判で闘って下さいました。何事にも間違いはあり得ることですが、間違ったのであれば、真摯に反省し誤りを正さなければなりません。宮城県は、問題が発覚した当初から、法律に従い真摯に誤りを正す姿勢を示すべきでした。
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